白いアクセサリー

​日本人研究者による研究知見

2016年以降、日本でもHSPをテーマとする研究が増えてきました。ここでは審査付きの国際誌に掲載されたインパクトの高い主要な論文を紹介します。その他の日本語論文については「CiNii」や「J-STAGE」「Google Scholar」で「感覚処理感受性」と検索いただくと、その出版動向が把握できます。

Highly sensitive adolescent benefits in positive school transitions: Evidence for vantage sensitivity in Japanese high-schoolers.

​感受性の高い青年は良好な学校移行で利益を享受する:日本人高校生におけるヴァンテージ感受性のエビデンス

Iimura, S., & Kibe, C. (2020).

Developmental Psychology, 56(8), 1565-1581.

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この研究では、中学校から高校への進学にわたって学校環境が良好に変化したとき、感覚処理感受性の高い子どもたちの社会情緒的適応が、感受性の低い子どもと比べて高まることが示唆されました。従来、中学校から高校への学校移行は、子どもの社会情緒的適応にネガティブな影響を及ぼすという見解がありましたが、その効果は子どもの感受性の個人差によって調整されることがわかりました。したがって、感受性の高い子どもは、非適合的な学校環境下では悪い影響を受けやすく、適合的な学校環境下ではその良い影響を受け取りやすいといえます。感受性が高い子どもを「脆弱な子」ととらえるのではなく、「良くも悪くも学校環境の質に影響されやすい子」と理解することが大事です。

The relationships among daily exercise, sensory-processing sensitivity, and depressive tendency in Japanese university students.

​日本人大学生における日々の運動、感覚処理感受性、抑うつ傾向の関連

Yano, K., & Oishi, K. (2018). 

Personality and Individual Differences, 127, 49-53.

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感覚処理感受性と運動習慣は、それぞれ私たちのメンタルヘルスと関連することが知られていますが、これまで感受性と運動の関連を検討した研究はありませんでした。そこで、​この研究では、大学生の感覚処理感受性が日常的な運動習慣と抑うつ症状にどのような関連を示すのか検討を行いました。結果として、易興奮性と低感覚閾が高い人は、運動習慣が少ない傾向があり、そうした傾向を通じて抑うつ症状の高さと関連しうることが示唆されました。メンタルヘルスを考えるうえでは、環境感受性×運動習慣のような組み合わせの効果を考えた方が、その改善に役立つヒントが得られるかもしれません。

Sensory processing sensitivity and culturally modified resilience education: Differential susceptibility in Japanese adolescents.

​感覚処理感受性と文化的に修正されたレジリエンス教育:日本人青年における差次感受性

Kibe, C., Suzuki, M., Hirano, M., & Boniwell, I. (2020).

PLoS ONE, 15(9), e0239002.

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学校現場で実施される教育介入プログラムは、平均的には明瞭な効果が確認されないことがしばしばあります。その背景には、介入プログラムからの恩恵の受けやすさの個人差があり、それを考慮しないためだと考えられています。これを「hidden efficacy」と呼びます。この研究では、学校現場でのレジリエンス心理教育プログラム(SPARK resilience program)が、子どもの感覚処理感受性によって調整されるのかどうかを検討しました。この研究で明らかになったのは、感受性の高い子どもは介入プログラムの恩恵を受けやすいということでした。具体的には、感受性が高い子どもほど、介入の前後で自尊感情が高まり、抑うつ症状が低下しました。この研究が示すように、介入効果を検討する際には環境感受性の個人差を考慮することが有益な情報をもたらすかもしれません。

Highly sensitive adolescents: The relationship between weekly life events and weekly socioemotional well‐being.

​感受性の高い青年たち:週ごとのライフイベントと週ごとの社会情緒的ウェルビーイングの関連

Iimura, S. (2021). 

British Journal of Psychology

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環境感受性理論の精緻化が進む今、感受性の高さは「脆弱性」因子ではなく「可塑性」因子として理解されています。この見解を踏まえて、この研究では、感受性の高い青年が、週ごとに経験する主要なライフイベントの質によって、週ごとにどのようなメンタルヘルスを示すのか検討されました。4週間にわたって4つの調査を繰り返した結果、次のことがわかりました。それは感受性の高い青年は、低い青年と比較して、週ごとのライフイベントから良くも悪くも影響を受けやすいということです。ある週では、ライフイベントの性質がポジティブであるほど、良好なメンタルヘルスを示し(ヴァンテージ感受性)、ある週では、ライフイベントの性質がネガティブであるほど、低いメンタルヘルスを示しました(素因ストレス)。環境感受性理論が指摘するように、週レベルの生活においても、感受性の高さは単に「弱さ」になるわけではないようです。

Environmental sensitivity in adults: Psychometric properties of the Japanese version of the Highly Sensitive Person Scale 10-Item Version
​成人における環境感受性:HSP尺度日本語10項目版の心理測定的性質

Iimura, S., Yano, K., & Ishii, Y. (2022). 

Journal of Personality Assessment

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既存の日本語版HSP尺度には、測定精度が不十分な項目を含むことや妥当性と信頼性の検討が不十分であることなどの問題がありました。そこで、総勢2,388人から研究協力を得て、4つの研究(調査と実験)によって、これらの問題を解決することが試みられました。研究1では、感覚処理感受性の程度を強く反映する10項目が抽出され、これらはHSP-J10(HSP尺度日本語10項目版)と名付けられました。HSP-J10因子構造は、Bifactor構造(易興奮性、低感覚閾、美的感受性、一般感受性因子)とよく適合していました。研究2では、HSP-J10の得点は他のパーソナリティ特性や情動と相関はするものの、それらと同一視できるほど関連が強くないこと(弁別されうること)が示されました。研究3では、HSP-J10の得点は、2か月程度の時間を空けて測定しても安定性が高いことがわかりました。研究4では、HSP-J10の得点が高い人は、ポジティブな情動を喚起させる動画の視聴前後でポジティブな情動が高まる一方で、HSP-J10の得点が低い人ではそのような変化がみられなかったことが明らかになりました。これらの研究知見から、HSP-J10の得点は、感受性の個人差をある程度反映するものであることが示唆されました。

Beyond the diathesis-stress paradigm: Effect of the environmental sensitivity x pubertal tempo interaction on depressive symptoms.
​素因ストレスパラダイムを超えて:環境感受性と思春期(第二次性徴)テンポの交互作用が抑うつ症状に及ぼす影響

Iimura, S., Deno, M., Kibe, C., & Endo, T. (2022). 

New Directions for Child and Adolescent Development

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発達心理学の研究では、同年齢の子どもよりも第二次性徴が早い(身体の成長が進んでいる)ほど、高い抑うつ症状と関連することが示唆されてきました。私たちの研究ではその関係をもう一歩紐解くために、環境感受性の個人差に着目しました。結果として、環境感受性の高い男子は、12~13歳にかけて身体の成熟スピードが「遅い」ほど抑うつ症状が高く、身体の成熟スピードが「早い」ほど抑うつ症状が低いことが示されました。一方で、感受性の低い男子ではそうした傾向はみられませんでした。女子では、感受性と第二次性徴の交互作用効果は検出されませんでした。特に男子における知見から、感受性の高さが必ずしも抑うつ症状の「リスク要因」になるわけではなく、身体のスピードによって「良くも悪くも」影響を受けやすい「可塑性要因」として機能することが示唆されました。