環境感受性についてのQ&A
Q&A形式でHSPを学ぶ
01/
親がHSPであれば、子どももHSCになる?
環境感受性は遺伝的な要因によっても形成されますが、すべてがそれで決まるわけではありません。最新の研究では、環境感受性の気質的側面である感覚処理感受性は、その個人のの約47%が遺伝で説明されることが報告されています(Assary et al., 2020)。残りの約50%は、生育環境によって決まるといえます。したがって、親が環境感受性が高い場合(つまりHSP)からといって、その子どももそうになるとは限りません。
02/
HSPになることは生まれた時から決まっている?
しばしば、環境感受性は生得的な性質であるといわれることがあります。生まれた時から感受性の程度(HSPであるか否か)が決まっているように思われるかもしれません。しかし、感受性も発達的に形成されます。上述のように、感受性の個人差のうち約50%が遺伝的に説明されますが、残り50%程度は環境によって決まります。神経感受性仮説(Pluess, 2015)によれば、感受性遺伝子と幼少期の環境の相互作用によって、感受性にかかわる脳神経系(中枢神経系)が形成され、それが私たちの感受性の個人差を生じさせることが指摘されています。
03/
女性のほうが男性よりも環境感受性が高いか?
研究での知見は一貫していません。女性の方が感受性が高いことを示す有力な理論もありません。自己報告式の質問紙調査にもとづく研究では、女性のほうが得点を高く報告する傾向はあります(例えば、Pluess et al., 2018)。一方で、感受性の遺伝率を調べた研究では、遺伝的な性差がないことが報告されました(Assary et al., 2020)。「感受性の高さは女性によって表現されるもの」というジェンダー観が広く共有されてきた文化では、質問紙で報告される感受性得点は女性の方が高くなる可能性もあります(Aron & Aron, 1997)。感受性の性差に関しては、今後さらなる研究の蓄積が求められます。
04/
環境感受性の高さは「弱さ」か?
環境感受性が高い人に対して、ストレスや逆境に撃たれ弱いイメージをもつ人がいるかもしれません。たしかに研究では、望ましくない家庭環境(被養育経験)やストレスフルなライフイベントなどのネガティブな経験から、悪影響を受けやすい傾向があることが報告されています。ですので、状況によっては「弱さ」としてみられるかもしれません。古い研究パラダイム(素因ストレス理論・二重リスク理論)での関心は、発達的なリスクの解明にあり、その関心のもとでは、感受性の高さは「脆弱性」とみなされました。しかし、現在ではこのような「感受性=弱さ」という見方は、偏ったものだといえます。現在の研究パラダイム(環境感受性理論)では、感受性の高さは「ネガティブな経験から悪い影響を受けやすいだけでなく、ポジティブな経験から望ましい結果を受け取りやすい」とみなされ、それを支持する知見が数多く報告されるようになっています。
05/
環境感受性と他の性格特性との関連は?
環境感受性の気質的側面である感覚処理感受性は、他のさまざまな性格特性と関連することが報告されています。心理学では、性格特性は5つの次元で測定されることがあります。性格特性の各次元は、感受性と同様に低いから高いまでのスペクトラムとしてみなされる概念です。それぞれの性格特性の特徴は次の通りです。
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外向性(社交的、活発さなど)
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神経症傾向(ネガティブな方向に感情が揺さぶられやすい)
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開放性(好奇心や想像力など)
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協調性(やさしく、協力的)
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勤勉性(まじめ、勤勉さ)
メタ分析(複数の研究報告を統合して分析する手法)を用いた最近の研究では、感覚処理感受性の高さは、子どもにおいては神経症傾向の高さと関連し、成人においては神経症傾向と開放性の高さと関連することが報告されています(Lionetti et al., 2019)。しかし、関連の強さはそこまで大きいわけではありません。感覚処理感受性と他の性格特性は明らかに弁別されうる概念です。また、HSPは内向的であると考えられがちですが、これを強く裏付ける研究はありません。
06/
環境感受性が高いことによる「強み」はあるか?
環境感受性の高さとは、「良い環境からも悪い環境からも影響を受けやすい」ことです。感受性の低い人と比べて、感受性が高い人ほど良い環境下ではその利益を受け取りやすいことが示唆されています。このことをヴァンテージ感受性(Vantage Sensitivity)と呼びます(Pluess & Belsky, 2013)。その詳細なメカニズムについてはまだ未解明な部分が多いのですが、いくつかの研究でヴァンテージ感受性を支持する知見が得られています。例えば、望ましい養育を受けると良好な社会情緒的適応を示したり(Slagt et al., 2018)、学校ベースドのレジリエンス教育やいじめ予防プログラムの効果が得られやすかったり(Kibe et al., 2020; Nocentini et al., 2018)、高校進学後の学校環境が良好であると高い精神的健康を示したりすることが報告されています(Iimura & Kibe, 2020)。
07/
環境感受性の高さは「障害」か?
自閉スペクトラム症(ASD)と呼ばれる神経発達症(発達障害)の診断基準には、感覚過敏(あるいは感覚鈍麻)が挙げられています。ASDの研究分野と環境感受性の研究分野は、これまでほとんど交わることなく独自に発展を遂げてきました。そのため、異なる分野でそれぞれ研究されてきた感受性概念の相違点を十分に整理した理論はないようにみえます。環境感受性の研究分野では、ヒトの感受性のバラつきが進化神経発達的なルーツによって生じたと考え、この高さを「障害」特性というよりも「適応的」な特性として扱う傾向があります。
08/
環境感受性に文化差・人種差はあるか?
実はまだよくわかっていません。2025年現在、環境感受性の人種差・文化差を直接的に検討した研究はほとんどありません。日本人青年を対象に研究を行ったIimura & Kibe(2020)は、同年代のイギリス人青年サンプルのデータと比較すると日本人青年のほうが平均値が高い傾向がみられたことを指摘しています。また、感受性遺伝子型の一つである5-HTTLPR s型の人口分布をみると、アメリカでは約40%がs型を保持し、日本では約80%が保持することが報告されています(Chiao & Blizinsky, 2009)。もしかすると、日本人は環境感受性が高い傾向がみられるのかもしれませんが、詳細については今後の研究知見の蓄積が待たれます。