HSP情報の誤解を紐解く
HSPを専門とする心理学者による見解
01/
「HSPうつ」を磁気刺激療法で治療する
あるクリニックでは、HSPであることによって生じるうつ症状を「HSPうつ」と名づけ、磁気刺激療法による治療を勧めています。しかし、まず前提として、心理学でも精神医学でも「HSPうつ」という概念/疾患は存在しません。それゆえ、「HSPうつ」なるものが磁気刺激療法で改善するというエビデンスも全くありません。いくつかの医療機関では、HSP/HSCを「診療」「改善」することを謳った宣伝をしています。しかし、これは明らかに医療機関側でHSP/HSCを適切に理解できていないことを意味しますのでご注意ください。
02/
HSPはミラーニューロンの働きが強い
環境感受性が高い人では、恋人あるいは見知らぬ人の笑った顔や悲しんでいる顔の写真を提示されると、共感性を司る島皮質が活性化することが示唆されています(Acevedo et al., 2014)。しかし、これまでミラーニューロンとの関連を直接的に実証した研究エビデンスはありません(本記事執筆時現在)。現状では、飛躍した主張だといえるでしょう。「HSPはミラーニューロンの働きが強い」という主張では、Acevedo et al.(2014)やAron, Aron, & Davies(2005, Study4)がその根拠として引用されるされることがありますが、これらの研究ではミラーニューロンの働きを直接調べたわけではありません。
03/
ネットのHSP診断テストでHSPと診断された
Googleで「HSP」と検索すると、上位に「HSP診断テスト」というサイトが表示されます。このサイトで自身がHSPかどうかを判断される人が多いようです。しかし、このサイトの項目は研究で用いられているものではありません。また、明らかに感受性の個人差を測定するものではない項目も含まれます。さらに判定基準も不明です。したがって、学術的には、信頼性と妥当性が不明瞭なテストだといえます。
04/
HSPチェックリスト:一日中憂うつな気分が続く
複数のクリニックのサイトでは、HSPチェックリストが紹介されていることがあります。実際に確認したサイトには、「一日中憂うつな気分が続く」「もともと興味があったことに興味がもてなくなってきた」「自殺を考えてしまうことがある」といった項目がHSPかどうかを判断するものとして提示されていました。しかし、これらの項目は、明らかに感受性の個人差を測定する内容ではなく、うつ病に特有のものです。なお、精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)によるうつ病(大うつ病)の診断基準はこちらから確認できます。
05/
HSPは魂のレベルが高い
あるサイトで「HSPは魂のレベルが高い人たち」と書かれていました。研究では、魂の存在は証明されていません。HSPとは無関係な情報です。このサイト以外にも、HSPという言葉を入り口にスピリチュアルな世界に誘導する情報があります。スピリチュアルや宗教を否定しているわけではありません。「HSPと関連のない言説」をもとに誘導することが問題なのです。同様に「HSPは第六感(霊感)がある」「HSPには漢方が効く」といったエビデンスのない宣伝もありますので注意が必要です。
06/
魔法の言葉を唱えておなかをさするとHSPであることのストレスが和らぎ効果的
「魔法の言葉を唱えておなかをさすると、HSPのストレスが和らぐので効果的」と書かれた医療系のネット記事があります。しかし、「魔法の言葉」やそれがHSPのストレスを和らげるかどうかも、エビデンスはありません。やはりこれもスピリチュアルな世界の話であり、HSPとは無関係です。残念ながら、医療系の記事であっても、HSPに関しては信頼できない情報が多いため注意が必要です。
07/
HSS型HSP、内向型HSP、外向型HSP
SNSや書籍では「○○型HSP」などの言葉をよく見かけます。例えば「HSS型HSP」は刺激希求性が高いHSP、「内向型HSP」は内向的なHSPを表すようです。実は、このようなタイプ分けの研究は全く行われていません。こうしたタイプ分けの妥当性も不明です。血液型診断のようにわかりやすいため、流行るのは納得できますが、研究にもとづくものではない点は留意すべきかもしれません。
08/
HSPは遅刻しにくい
そのようなエビデンスはありません。しばしばネット上で「HSPあるある」として発信される情報の一つです。遅刻しにくいからといって、それをHSPと結びつけるのは不適切です。「HSPあるある」は、個人的な経験をもとに発信されることが見受けられます。その多くは研究的なHSPの考え方とは距離があります。ほとんど誰もが当てはまる内容もあり、自身の性格が言い当てられた感覚を覚えますが、それは心理学ではバーナム効果と呼ばれるものです。「HSPあるある」をもとに、自身がHSPであるかどうかを判断するのは留意した方がよいでしょう。
09/
HSPは職場でうつになりやすい
そのようなエビデンスはありません。「HSPだから職場でうつになる」というのは、HSPについての偏った見方です。環境感受性の理論にもとづけば、感受性が高い人は、良い職場環境からも悪い職場環境からも影響を受け取りやすいというだけです。その点で、「環境の調整をできるかどうか」がメンタルヘルスにとって大事といえるかもしれません。
10/
HSPは学校が苦手
そのようなことはありません。学校が苦手な生徒や不登校の生徒に対して、安易にHSP/HSCというラベルを貼るのは不適切です。HSP/HSCへのスティグマ(差別、誤ったレッテル)につながります。支援者はHSP/HSCというラベルを貼ることよりも、その生徒がどのような苦痛を訴えているのか、どのような(悪い)環境に置かれているのかをアセスメントし、それに応じた支援を検討する必要があるでしょう。子どもの感受性気質は、支援を検討する際の一つの要素であって、ラベルを貼ること自体が目的になるべきではないように思います。
11/
HSPは0か100かの両極端で考える
そのようなエビデンスはありません。これも「HSPあるある」として発信されるものです。このような言説にHSPというラベルを貼るのは不適切です。「HSP=極端な考えをする人」というスティグマにつながります。
12/
HSPは頼まれると断れない
このようなエビデンスはありません。これも「HSPあるある」として発信されていました。このようなことにHSPというラベルを貼ると誤った見方を助長します。他にも「HSPは自分の考えがない」など、自己主張できない人かのように発 信されることがありますが、そのような主張を支持するエビデンスはありません。
13/
HSPは両親から愛された記憶がないと言う
デマです。信じないでください。
14/
HSPは転移が生じやすい
心理カウンセリングの場面では、クライエントが過去に経験した両親や友人や恋人などへの態度をカウンセラーに向けるようになることを転移と呼びます。HSPは転移が生じやすいと記載するサイトがありますが、このようなエビデンスは全くありません。
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HSPはインプットが多いのでアウトプットすると心が整う
このようなエビデンスはありません。
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HSPは覚えるのは苦手だけど、覚えたらすごい力を発揮する
このようなエビデンスはありません。不適切なラベリングです。
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HSPは脳が慢性的に炎症しているかもしれない
とあるネット記事では、HSPの敏感さと脳の慢性的な炎症の関連を示唆する内容が書かれていました。環境感受性は、脳の炎症によって生じる過敏性とは異なります。
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HSPは生きづらい
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HSPは人の顔を覚えるのが得意
そのようなエビデンスはありません。
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HSPとSNSは相性がよい
そのようなエビデンスはありません。
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HSPは能力
HSPは、環境感受性が高い人を表すラベル/カテゴリです。能力を指す言葉ではありません。このサイトで環境感受性の考え方を学びましょう。HSP「気質」を能力だとする考えも適切な見方であるとは言えません。感受性が能力なのだとしたら、それはトレーニング次第で高めたり、低めたりすることができるはずですが、感受性は気質であり、少なくとも成人期以降は安定した(変化の少ない)概念として特徴づけられます。
22/
HSPは漢方で症状がよくなる
そのようなエビデンスはありません。また、環境感受性は症状ではありません。
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HSPは電話が苦手
そのようなエビデンスはありません。
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HSPはコーヒーが苦手
カフェインから影響は受けやすいかもしれませんが、「影響を受けやすい=苦手」というわけではありません。場合によっては、カフェインから良い影響を受けることも考えられます。しかし、現在のところ、環境感受性とカフェインの関係を直接的に調べた研究はありません。
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HSPは自己否定が強い
そのようなエビデンスは ありません。HSPと関係のないことに対してHSPというラベルを貼り、不安をあおる発信が多いです。気をつけましょう。
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クリニックの診療科目にHSPがある
環境感受性は疾患ではありません。HSPの診断や治療をうたうクリニックは、明らかにHSPを誤解しています。気をつけましょう。
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HSP専門○○資格講座
HSP専門○○という資格を短期間で付与する講座が広まっています。HSPが不正確に広まった日本においては、一部で不健全な資格ビジネスが拡大しています。魅力的にみえるかもしれませんが気をつけた方がよいと思われます。なお、HSPに関する公的な資格はありません。現在のところ、心理カウンセラーとして広く信頼される資格は「公認心理師」「臨床心理士」です(あるいは「精神保健福祉士)。
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世の中の大多数は非HSPである
これは「HSPか非HSPか」のように二値的に考えると陥りやすい考えかもしれません。このサイトでも解説するとおり、環境感受性は正規分布する特性です。そのため、いわゆる感受性が高い人も低い人も同じ割合になります。もっとも多数派なのは「感受性が高くもなく低くもない人たち」になります。