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論文の読み方
HSPの論文をダウンロードすることができたら、次は論文を読んでみましょう。PDFのまま読んでも、紙に印刷して読んでもよいです。英語が苦手な人は、日本語の論文からスタートするのがよいかもしれません。
「論文を読んでみましょう」と簡単に言いましたが、論文を読むのはとても大変なことです。初めのうちは、日本語の論文であっても外国語を読んでいるような感覚になるかもしれません。論文独特の文章表現、頻出する専門用語、結果部分での統計的な数値の数々、などがその理由です。専門家が執筆しているので当然と言えば当然です。論文を十分に理解するには、高いリテラシーが求められます。
論文の要約部分を読む
しかし、そんなことをいうと、読む気がなくなってしまいますよね。ですので、ここでは研究者ではない人たちが、どのように論文を読んだらよいかを解説します。
例として、以下の論文を挙げます。
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岐部 智恵子・平野 真理(2019).日本語版青年前期用敏感性尺度(HSCS-A)の作成,パーソナリティ研究,28,108-118.https://doi.org/10.2132/personality.28.2.1
先に結論だけ言うと、著者名のすぐ下にある「要約部分」を読んでください。以下の画像で示すと、著者名とキーワードの間にある「本研究の目的は…」から始まる文章です。ここを読めば、この論文が「何を検討したのか」「何が明らかになったのか」がだいたいわかります。
上述のように、専門用語が含まれるので、難しいかもしれません。その場合は、グーグル検索の出番です。調べてください。例に挙げた論文であれば、専門用語がわからなくても以下のことは読み取れると思います。
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日本語版青年前期用敏感尺度を作成した
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中学1年生から高校1年生を対象に研究した
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尺度は易興奮性、美的感受性、低感覚閾の3因子で構成された
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妥当性のある尺度であることが示された
この要約部分は、アブストラクトと呼ばれます。ほとんどの論文には、このアブストラクトが含まれます。多くの研究者は、本文を読むかどうか判断するために、まずはアブストラクトから読みます。
初学者にとっては、アブストラクトを読んで、論文の「雰囲気」を理解するだけでも十分だと思います。
論文の内容をもっと知りたい場合は、本文に進みましょう。
論文の本文を読む
論文の内容をさらに詳しく知りたくなった方は、本文も読んでみましょう。本文を精読するには、慣れていないとかなり時間がかかります。ここでは、初学者がどのようにHSP論文の本文を読んだらよいか、そのポイントをご紹介します。
初めに、論文の基本的な構造を知っておきましょう。論文には、アブストラクトの他に、次の構造が(ほぼ)必ずあります。
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問題と目的(Introduction)
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方法(Methods)
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結果(Results)
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考察(Discussion)
それぞれの構造の要点を押さえた読み方のポイントは次の通りです。
「問題と目的」を読むポイント
「問題と目的」では、研究の背景と目的が書かれています。例えば、先行研究では何がどこまで明らかにされ、何がまだ明らかになっていないのか、がここでレビューされます。そのうえで、この研究の目的が述べられます。
この研究の目的をすぐに知りたければ、「問題と目的」の最後あたりのパラグラフ(段落)を確認してみるとよいと思います。多くの研究は、先行研究のレビューを経て、最後に目的を述べるからです。
先行研究でどのようなことが明らかにされているのかを知りたい人は、「問題と目的」を上から順に読んでいくとよいでしょう。
「方法」を読むポイント
「方法」では、まさに研究の方法が書かれています。例えば、対象者はどのような人たちで、どのように協力を募ったのか。研究で調査や実験を行う際に、どのような材料(質問紙や実験機材)を用いたのか。データはどのように分析したのか。そのようなことがここで書かれています。
対象者の特徴(人数や性別などの属性)を押さえること。調査と実験のどちらが行われたのかを確認すること。調査や実験の材料を最低限把握すること。これらが読む際のポイントとして挙げられます。
どのようなデータ分析の方法が使われたのかについても、できれば理解してほしいところです。しかし、初学者にとっては統計解析を理解するのはかなりハードルが高いです。ここについては、十分に理解できなくても初めのうちは仕方がないと思います。
「結果」を読むポイント
「結果」のセクションでは、統計的な解析の結果が記載されています。正直、ここは初学者が最も読みにくいセクションだと思います。心理統計学の知識がないと、分析や統計的な数値の解釈が難しいからです。
専門家の場合には、もちろん読めないといけません。しかし初学者の場合には、数値の解釈はひとまず置いておいて、文章だけ読むとよいでしょう。文章だけ読んでもある程度は結果が理解できるように書かれているものです。
「考察」を読むポイント
「考察」では、結果の要約や解釈、先行研究との関連、研究の限界点などが書かれています。
多くの論文では、冒頭で研究の目的が書かれているので、冒頭を読めば「この研究で何を検討したのか」を思い出すことができます。考察の中盤では、結果の解釈や先行研究との関連が述べられています。考察の後半では、研究の限界点や結論が書かれることが多いです。
結果のセクションで、統計的な解析結果が理解できない場合でも、考察を読めばどのようなことが明らかにされたのかを理解することはできます。
ここまで論文の探し方や読み方を解説してきました。学習の最終的な到達点かもしれませんが、論文を読むことができるレベルになっていれば、世の中で発信されているHSP情報を批評的に解釈できることに近づきます。また、自身で研究の問いを立て、HSPに関する新たな研究ができることにも近づきます。こうした一連の学びは、大学の心理学部で行われているものです。