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ストレスに対する反応性の違いは幼少期に形成される?

更新日:5月7日


ある人は、他のある人よりも、ポジティブおよびネガティブな環境から影響を受けやすい――私たちには、環境から受ける感受性/反応性に個人差があります。心理学ではこれを「環境感受性」という概念で説明しています。




本記事のねらい


本記事では、環境感受性の一つの側面である「ストレスに対する反応性」の違いがどのように形成されるのかについて解説します。


ストレスに対する反応性とは、文字通り、ストレスを受けた時にみられる生理的な反応の高まりを表すものです。同じレベルのストレスを受けても、人によっては、生理的な反応が非常に高まる一方で、人によっては、反応が小さかったりもします。

このような反応には、自律神経系や視床下部-下垂体-副腎系(大きくいえばストレス反応システム)が関与しています。ストレスを受けると、ストレスホルモンのコルチゾールが分泌されるといったことは、おそらく一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?ざっくりですが、生理的な反応とはそのようなイメージをもっていただいてかまいません。


ストレスを受けた際の生理的な反応について詳しく知りたい方は、以下のサイトを参考にされると良いかもしれません。


[ストレス – 脳科学辞典]




ストレスに対する反応性の違いと幼少期の環境の関係


近年、ストレスに対する反応性の個人差を説明する有力な理論として、生物感受性モデル(Boyce & Ellis, 2005)とそれを拡張した適応的調整モデル(Del Giudice et al., 2011)が提案されています。これらの理論の中で、本記事がとくに注目するのが、ストレス反応性の個人差についての議論です。


それは「U字曲線仮説」と呼ばれます。図で見た方が分かりやすいので、以下に示します。





このU字曲線仮説では、とくに幼少期に経験する環境の質が、ストレスに対する生理的な反応性の形成にとって重要であることが論じられています。


幼少期に経験する環境の質ごとにみていきましょう。


(1)とても安全で、サポーティブで、ストレスの低い環境


ストレスに対する生理的な反応性は高くなります。子どもたちは、サポーティブな環境に晒されるので、ポジティブな環境から得られる機会や利益に対する感受性を高めるでしょう。



(2)ネグレクトなどの不適切な養育、保護者の抑うつ、不安定で、ストレスの高い環境


同様に、ストレスに対する生理的な反応性が高くなります。子どもたちは、ネガティブな環境に晒されるので、そうした危険や脅威に対する感受性を高めるでしょう。



(3)サポーティブでもストレスフルでもなく、(1)と(2)の中間的な環境


上記と比べれば、低いあるいは中程度の反応性を示します。この場合、生理的な反応性の高さによる(1)メリットと(2)コストのバランスが取れた状態になります。



しばしば感受性の高さは生得的であると論じられますが(間違いでもありませんが)、これは生まれながらに決定されたものであることを意味するわけではありません。上述のように、幼少期の環境の中で形成されるという考えが有力です。


この形成プロセスには、感受性にかかわる遺伝子も関与してきたりします。まだ仮説の域ではありますが、Ellisらの研究チームによって、このU字曲線仮説を支持する知見も提出され始めています(e.g., Ellis et al., 2005; Shakiba et al., 2020)。





感受性のルーツを突き詰める


私たちの感受性のルーツは、幼少期の環境にあるかもしれません。進化発達心理学の視点からみると、私たちの感受性の高さは、「自身の生育環境の性質に応じて、生存率や包括適応度(=遺伝子を残す確率)を高めるために、最適化(調整)されて形作られたものである」と考えることができます(Del Giudice et al., 2011)。自分の意志とは無関係ではありますが、私たちは(進化的な意味で)自身の適応がうまく行くために、最適な感受性の高さを選択しているともいえるでしょう。





引用文献

  1. Boyce, W. T., & Ellis, B. J. (2005). Biological sensitivity to context: I. An evolutionary–developmental theory of the origins and functions of stress reactivity. Development and Psychopathology, 17, 271–301. doi:10.1017/s0954579405050145

  2. Ellis, B. J., Essex, M. J., & Boyce, W. T. (2005). Biological sensitivity to context: II. Empirical explorations of an evolutionary–developmental theory. Development and Psychopathology, 17, 303–328. doi:10.1017/s0954579405050157

  3. Del Giudice, M., Ellis, B. J., & Shirtcliff, E. A. (2011). The adaptive calibration model of stress responsivity. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 35, 1562–1592. doi:10.1016/j.neubiorev.2010.11.007

  4. Shakiba, N., Ellis, B. J., Bush, N. R., & Boyce, W. T. (2020). Biological sensitivity to context: A test of the hypothesized U-shaped relation between early adversity and stress responsivity. Development and Psychopathology, 32, 641–660. doi: 10.1017/S0954579419000518