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​環境感受性とは?

​HSPの考え方を知る

環境感受性の考え方について研究にもとづいた見方を紹介します。​専門用語が多く、難しく感じられるかもしれませんが、誤解を避けるためより正確な記述を心がけています。補足が必要な言葉については他の解説サイトへのリンクを貼りました。学習にお役立てください。環境感受性の考え方は、研究者によって執筆されたWikipediaでも学ぶことができます。

​環境感受性とは何か?

私たちは、生まれたときから死ぬまでに、さまざまな環境から影響を受けます。その意味で、私たちは環境依存的な存在であると言えるでしょう。

環境からの影響の受けやすさ(感受性)には、一人ひとりにばらつき(個人差)があります。たとえ同じ環境に置かれたとしても、ある人は環境刺激から非常に影響を受けやすく、ある人は影響を受けにくい様子が観察できます。

 

環境には物理的なものだけでなく、心理社会的なものも含まれます。研究では、家庭環境(被養育経験)やストレスフルなライフイベントなどが、環境として取り上げられることがあります。

研究者たちは、このような感受性の個人差を「環境感受性」という概念で説明します。環境感受性は「ポジティブおよびネガティブな環境に対する処理や知覚の個人差」として定義される概念です。

​環境感受性は、ヒトが誰もがもつ一般的な特性です。低い人から高い人までのグラデーションがみられます。その分布の形状は、正規分布(平均値周辺に人数がもっとも多く、平均値から左右対称の形状)を示すことが指摘されています(Zhang et al., 2021)。

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​HSP/HSCとは何か?

HSP(Highly Sensitive Person)あるいはHSC(Highly Sensitive Child)とは、環境感受性がとくに高い人たちを表すラベルです。HSPは「生きづらさ」を表すラベルではなく、「良い環境と悪い環境から、良くも悪くも影響を受けやすい人」として理解されています。

最近の研究では、分類学的な統計手法にもとづき、環境感受性の程度が3つのグループに分類されることが示唆されています(Pluess et al., 2018; Lionetti et al., 2018)。

一つ目は、感受性の高いグループで、約30%程度の人が所属します。二つ目は、感受性が中程度のグループで、約40%程度の人が該当します。三つ目は、感受性が低いグループで、約30%程度の人がこれにあたります。研究では、感受性の高いグループにあたる人たち(上位30%程度)をHSP/HSCとラベリングして、その心理的特徴を調べることがあります。

しかし、環境感受性は連続的な特性(スペクトラム)として特徴づけられる概念であるため、そもそも分類を推奨しない研究者もいます(本サイトの運営者もその立場です)。また、HSPか非HSPであるかを切り分ける明瞭な基準もありません。

このような分類は、科学的なコミュニケーションを円滑にするためには役立つ場合もあるでしょう。一方で、ラベルを貼ることによるデメリット(不適切なスティグマを生む可能性)もあるため、その使用には注意が必要です。

​環境感受性の測定

私たちの環境感受性の個人差は、さまざまな要因から把握することができます。研究では、おもに次の3つの特徴から、環境感受性の個人差を測定しています。

1.感受性遺伝子型

研究では、いくつかの遺伝子型の有無が、感受性の個人差に関与することが指摘されています。例えば、セロトニントランスポーター遺伝子多型(5-HTTLPR)のS型、ドーパミンD4レセプター遺伝子多型の7R型などです(Belsky & Pluess, 2009)。

ある感受性遺伝子型をもっている人は、もっていない人に比べて感受性が高い傾向があると考えます。最近のゲノムワイド研究では、①一つひとつの遺伝子が感受性の高さに関与する程度は小さいこと、②一つひとつの遺伝子の効果が積み重なって(累積的に)感受性の高さを形成すること、が示唆されています(Keers et al., 2016)。

2.神経生理的な反応

環境感受性の指標として、神経生理的な反応性を参照する場合もあります。例えば、実験協力者に対してfMRIの中で刺激画像を提示して、その際の脳領域の活性化をみるような研究です。神経生理的な研究知見はまだ限られていますが、環境感受性が高い人は、扁桃体(感情)、海馬(記憶)、島皮質(共感)などの脳領域が環境刺激を受けて賦活化する傾向が比較的強いようです(Acevedo et al., 2018)。

3.気質・性格

遺伝子や神経生理システムは、私たちの行動に影響を及ぼします。環境感受性は、行動レベルでも確認することができます。環境感受性の気質・性格的側面は、「感覚処理感受性」という概念を用いて研究されています。感覚処理感受性が高い人は、刺激に対して、深い認知的処理、圧倒されやすさ、情動・共感的な反応の高まり、気づきやすさ、などの特徴があるとされています(Greven et al., 2019)。感覚処理感受性は、心理尺度によって測定できます。

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​環境感受性の理論

感受性の個人差に関する研究は、これまでさまざまな理論にもとづき研究がなされてきました。例えば、進化発達心理学の理論である「差次感受性理論」(Belsky, 1997; Belsky & Pluess, 2009)や「生物感受性理論」(Boyce & Ellice, 2005)、パーソナリティの理論である「感覚処理感受性理論」(Aron et al., 2012)などです。

これらの理論はいずれも、ある人は他者よりもポジティブ・ネガティブな環境から影響を受けやすいということを説明する点で共通しています。最近では、これらを統合した理論である「環境感受性理論」(Pluess, 2015; Greven et al., 2019)が提唱されています。

研究者たちは、未だに未解明な部分が多い神経生理的な側面や文化差などの研究を行い、環境感受性のさらなる理解を試みています​。

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